天邪鬼からプレゼント

 

 

 

十一月一日。土曜日。

「犬飼くん。これ、一日早いけど、誕生日プレゼントです!」

そう言って一方的に押し付けた後、見知らぬ女子生徒は回れ右して廊下を駆け出していった。
「渡しちゃった!」と連れの友人(恐らく一人では勇気がなかったので付いてきてもらったのだろう)に
喜びの言葉で騒ぎながら。

(………やれやれ)

こちらからは何も言わないまま渡されたプレゼントを見て、犬飼は溜息を出して緊張を解いた。
幾ら経っても女の子相手は緊張する。
可愛くラッピングされた、片手では少し持つのは難しい、大きな誕生日プレゼント。
それが例え少女の想いと比例した大きさであっても、犬飼にとっては正直扱うのに困る代物だった。
「迷惑」と言ってしまっては違うような気もするし、相手にも失礼だ
が、やはりどこかしらそれに近いものがある。
犬飼は、どんなに記憶の中を捜しても、自分の誕生日を誰かに言った覚えは無かった。
それ所か、プレゼントを渡されるまで誕生日の事など忘れていた。
きっと辰羅川が女子(恐らく追っかけ隊)に詰め寄られたか、報道部が流したのだろう。
それは確信に近い。
本当の誕生日は十一月二日。つまり明日である。
しかし明日は日曜日、そして珍しく野球部の練習はない事もあり、犬飼を想う女子生徒は一日早い
今日渡しているのだろう。
流石に住所までは情報流出していないらしい。最低限のプライベートは約束してくれているようだ。
犬飼は回れ右をして、教室へ戻っていった。次の授業の為に教室を移動する所だったが、生憎そこは
英会話教室。机の下に物を置けるスペースがある化学室とかなら良かったが、そこはパイプ椅子に
小さな机がついているタイプで、プレゼントをしまう――というより、隠す――場所がない。なので、
持って行く訳にはいかない。
まだ次の授業までに時間はあるから、教室に人は残っていて、鍵をかけてないだろう。

「……………………」

店のロゴが入っている淡い桃色の包装紙が歩く度にカサカサ音を立てる。柔らかい感触。
袋の中身を見ればプレゼントの中身が分かるだろうが、それは家に帰ってからにしておく。
犬飼が教室のドアを開けると、辰羅川が大きな包みを持った女子生徒数名を困り果てた表情を浮か
べながら応対していた。

(…………………またか)

犬飼はあからさまに溜息を吐いた。『溜息を吐けば吐くほど幸せが逃げる』という俗信を信じるならば、
彼は今日だけで既に何十回も逃げられている。いや、世間一般の男子から見れば様々な年頃の少女
からたくさんのプレゼントを貰える事は、それこそ極上の至福なのだろう。
その至福は半ば生まれた瞬間に承れるかどうか決まるのだから。足掻いて手に入れられるものでは
ない。カミサマはその至福を犬飼冥という少年に与えた。
『女性嫌い』というなんともアリガタイおまけ付きで。

 

何故カミサマは要らない物ばかりくれるのだろう。

 

何故カミサマは欲しい物をくれないのだろう。

 

神を余り信じない犬飼でも、思わず嘆きたくなる。
犬飼は再び溜息を吐いた。幸せがまた一つ逃げ出した。

 

 

 

それはともかく、この状態をどうすればいいのだろう。
犬飼の席は今辰羅川と少女たちがいる所に近いので、行ったら確実に女子生徒に捕まる。
教室のロッカーの中は既に満杯である。
行けない。
しかし、行かなければならない。
でも行けば捕まる。
犬飼は入り口でどうしようも出来ずに困っていた。

「………………お?」

その時、後ろから聞き慣れた声。

「よぅバカ犬。んなトコ突っ立って何やってんだ?」
「…!」

驚いて振り向けば、同じ野球部一年の猿野が不思議そうな顔をして立っていた。

「さ、猿…!」
「お前、思いっきし通行のジャマになってんぞ。お前ただでさえデカいんだから」

犬飼の事情を知らない猿野は、肩越しに振り向いている犬飼の背中を両の手で力一杯押した。
不意打ちに反応できず、少しもつれるようにそのまま教室の中に入ってしまう。

「あ、犬飼くんだ!」

騒ぎに気付いたのか、入ってきた犬飼の姿が視界の中に入ったのか、女子生徒の一人が気付く。

「い、犬飼くん! 今はデンジャーです! お逃げな……!」

辰羅川も女子生徒の言葉で犬飼に気付き、慌てて声を掛けるが、時既に遅し。
辰羅川は女子生徒に思い切り突き飛ばされ、

「犬飼くん! これ、誕生日プレゼントなの!」
「一生懸命考えて、犬飼くんが喜ぶようなもの選んだから!」
「え………あの………」

至近距離まで詰め寄られた犬飼は顔を真っ赤にさせる。何故か頭の両脇から白い犬の耳が見える。
心の中では断りたい、要らないって言いたいのに、口が思うように動かない。

「と、とりあえず…………」
「受け取ってくれる…、よね?」
「…………………………………」

そして、いざ断ろうにも、絶妙のタイミングで上目遣いに甘えてくるので、思わず言葉を飲み込んでしま
う。

「お、お嬢さん方、犬飼くんから離れてください! 彼怖がってるでしょう!」
「うっさいわね。金魚のフンは黙ってなさいよ」
「き、金魚のフン……」

辰羅川が止めに入ってくれたが、即座に一蹴されてしまう。犬飼と彼では態度が天と地の差である。

「酷すぎます…。御柳くんと言いこの少女と言い何故私を金魚のフン扱いするのでしょう?
 皆さん私が犬飼くんにくっついて回っているだけだと思いがちですがそれは誤解なのです。
 私は犬飼くんがより良いピッチャーになるにはどうしてらいいかといつも本気で考え………」

そして傷心の辰羅川は、教室の隅で体育座りをしていじけてしまった。
常に動いている右の人差し指は、きっと「の」の字を書いているのだろう。

「おい、辰………」
「犬飼くん!」
「お願い、受け取って!」

再び助けを求めようと辰羅川に手を伸ばすが、女子生徒がより迫ってきて遮られてしまう。

「犬飼くん!」
「……………………………………」

何も言えず、真っ赤にしたまま、困り果てるヘタレ王、犬飼。
このまま授業始まっても続いてしまいそうな雰囲気をブチ壊すものは、犬飼の後ろから現れた。

「いっぬかっいくーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんvvvvv」

 

ボキッ!

 

 

何かが黄色い声を出しながら、後ろから犬飼に飛びついてきた。
その際何か鈍い音がし、犬飼の身体が大きく仰け反った。

「何しやが……! あっ」
「犬飼キュンオメデト〜! 今日が誕生日なんでしょ?」

腰に激痛が走っている。頭にきつつ振り返ってみれば、そこには、二つに分けた三つ編みと、十二支
高校女子制服を包んでいる体は少女にしては背が高くゴツイ。
(自称)十二支高校のアイドル・明美である。

「じゃ、アタイがたっくさ〜んプレゼントあげるから、こっち来てちょうだい!」
「え、おい…」

見た目以上に力強く腕を掴まれ、犬飼はそのまま引っ張られる。

「ちょっとアンタ何よ! いきなり出てきて!!」
「うっさいわね!! 色目使いしか芸の無い女は黙ってなさい!!」

そう明美は吠えると、再び甲高い声で喚きたてる少女を無視して、犬飼を引きずりながら階段を二段
飛ばしで下って行った。その速さは兎丸に匹敵する。

「あんのオカマ〜〜〜!!!」
「ゆうちゃん! プレゼント潰れちゃうよ!!」

歯軋りしながら二人が去っていった方を思い切り睨んでいた、すっかりキャラの変わった少女の拳の
中にあるプレゼントの悲鳴が聞こえてか、もう一人が慌てて諌めた。

 

 

 

「お前ってホンットむかつくよな!!」

あれから真っ直ぐ裏庭まで出て、そこでの第一声はそれだった。いつの間にか明美から猿野へ戻って
いる。

「あんなに女の子から慕われてんのに、素直に受け取らないなんて、バチ当たりにも程があるぞ」
「………」
「そんなイヤならオレと代わってくれっつーの!! あーあ、つくづく幸せ無駄にしてるよな、お前って」
「………」

怒り顔でブツブツ言う猿野。一応犬飼に向かって言っているのだが、彼が何も言わないので独り言に
なっている。
何も言わない犬飼は、先ほど少し考えた事を再び思い出していた。

 

何故カミサマは要らない物ばかりくれるのだろう。

 

何故カミサマは欲しい物をくれないのだろう。

 

目の前にオレの要らないものを欲しがっている奴がいるのに

 

目の前にオレが欲しいものを持ってる奴がいるのに

 

「聞いてんのかよお前!!」

猿野に怒鳴られ、犬飼は我に帰る。

「テメェ犬科なら耳いーんだろ! さてはお前老犬か!?」
「………とりあえず、猿の話なんか右から左へ通りすぎるわ」
「人の話は聞けって教えられただろ、ったく!!」

ギャーギャー騒ぐ猿野。犬飼は迷惑そうな顔を浮かべて猿野の声が入ってくる耳を塞ぐ。

「ったく…。ってあーー!! 授業始まっちまう!! オレ今日当たんだよー!!」
「………ところでお前、なんでオレを連れてきたんだよ」
「可愛い女の子のプレゼントをお前なんぞに渡してたまるかっての!!」
「……………………さっき、『色目使いしか芸の無い女』って言ってたじゃねーか」
「あれ言ったのは明美さんであって、オレじゃねえの!」

最早二人は別人(この場合は二重人格、か)と考えた方が良いようである。

「…………本当にそれだけか?」
「は?」
「それだけでオレを連れてきたのかって聞いてんだよ」
「…………………………………………」

何処かに、仄かに期待を込めて、言ってみる。
猿野はそのまま呆けた顔で、犬飼を見上げている。
その表情を見ていると、早くも犬飼は後悔していた。
その先が言えない。
肝心要な所が言えない。
奇妙な雰囲気の中、暫く沈黙が続いた。

「………………………………当たり前じゃねーか」

猿野は言った。

「……………そうか」

犬飼も、それだけ答えた。

「…まぁ、いい。オレもどうしていいか困ってたし」
「は?」
「………とりあえず、礼…言っといてやる」
「え?」

こうも素直になる事はないので、犬飼は気恥ずかしくて、そっぽを向いていた。猿野の顔は見えない。
その目の前で、猿野が今度こそ本気で驚いているのが、気配で分かった。

「…………………………………………………キモチワルイ」
「とりあえず黙れ」

あからさまに本音を言われ、犬飼も流石に怒る。

「まぁ、この猿野様がいかに役に立つ存在か、分かったようだから、この際何も言わないでやる」
「………もう言ってるじゃねーか。つーかんな事微塵も思ってねーし」

胸を張る猿野に犬飼はとりあえず突っ込む。

「あ! そろそろ本気でヤベェ!! んじゃな犬!」
「あ、おい!」

猿野は腕時計を見た後、慌てた様子で犬飼をそのままに駆け出してしまった。犬飼の呼びかけには
一切答えない。

「…あのバカ猿」

犬飼は悪態を吐いてから、猿野が消えた方に背を向ける。

 

ゴンッ

 

その時、後頭部に鈍い音。そして何かが落ちる音。

「……………ッ!」

犬飼はモロ直撃した部分を両手で抑え、うずくまる。痛い。理屈抜きに痛い。
後ろを振り返ると、校舎へ戻っていったはずの猿野が少し遠くで立っていた。右腕が前に出ているの
は、きっと何かを投げた後なのだろう。

「………猿、テメェ……」
「忘れてたけど、明美さんからお前の誕生日プレゼント預かってたんだよ。いいか。明美さんからだぞ。
 オレじゃねえからな!! 確かに渡したから、ありがたく受け取れよ!!」

犬飼に文句を言わせる暇もなく、猿野は早口で捲くし立てて、犬飼に背を向けて再び駆け出した。
その時犬飼は、後頭部すら忘れて、落ちているもの――後頭部に当たったもの――を眺めた。

「……………………」

何て事はない。手の平ぐらいの小さなものだ。包装だって、白い紙袋にセロハンテープ貼ってあるだけ
の、素気なさ過ぎるものだ。
犬飼はそれを拾う。固い感触。伊達に後頭部に痛恨の一撃を与えたわけではないらしい。

「…………素直じゃねぇの」

犬飼がふっと笑う。
その小さなものが、その素気なさが、例え猿野の気持ちと比例したものであっても、

構わない。

犬飼は猿野のプレゼントを強く握り締める。

どうやらカミサマも、たまには素直に願いを叶えてくれるらしい。

 

 

 

ところで、何が入っているのだろう?
犬飼はその場でセロハンテープを外し、逆さにして右手の上に中身を落とした。

ペディ○リーチャム

肉たっぷり
野菜もたっぷり
栄養たっぷり
毛並みもツヤツヤになります

「……………………………………」

犬飼は、手の平の上の缶詰を、複雑そうに見つめていた。

やっぱり、中身は構うかもしれない………………………………。

頭の遠くで始業のチャイムが鳴る。

犬飼は溜息を吐いた。

 

 

 

†終わり†

 

†あとがき†

やっぱ本命CPは良いなぁ…。と思いつつ、やっぱ口喧嘩は苦手だなぁ…。と思います。
ていうか、もう誕生日過ぎちゃってます。
ていうか、これ書き始めたのが、犬飼君の誕生日当日ってどうよ?
……。
皆さま、事が大変になる前に、始めておきましょう。せめて一週間前とか………。

あんまり考えないで、指の赴くままに書いてました。
テキトーにつけた(ぉぃ)題名が殊の外当てはまってて驚きました。
表現の使いまわし沢山あります。
前書きが長いようです。相手(猿野)が半ば過ぎで漸く出てきてます。
そういや辰っつーどうなったんだろう。
反省点はあげるとキリがありません。
だから反省は三分と三十秒なのです。元ネタ、魔女の宅急便2(本)。

それではこの辺で。

 

03/11/09(一週間も遅れた…!)

 

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