天邪鬼からプレゼント
十一月一日。土曜日。 「犬飼くん。これ、一日早いけど、誕生日プレゼントです!」 そう言って一方的に押し付けた後、見知らぬ女子生徒は回れ右して廊下を駆け出していった。 (………やれやれ) こちらからは何も言わないまま渡されたプレゼントを見て、犬飼は溜息を出して緊張を解いた。 「……………………」 店のロゴが入っている淡い桃色の包装紙が歩く度にカサカサ音を立てる。柔らかい感触。 (…………………またか) 犬飼はあからさまに溜息を吐いた。『溜息を吐けば吐くほど幸せが逃げる』という俗信を信じるならば、
何故カミサマは要らない物ばかりくれるのだろう。
何故カミサマは欲しい物をくれないのだろう。
神を余り信じない犬飼でも、思わず嘆きたくなる。
それはともかく、この状態をどうすればいいのだろう。 「………………お?」 その時、後ろから聞き慣れた声。 「よぅバカ犬。んなトコ突っ立って何やってんだ?」 驚いて振り向けば、同じ野球部一年の猿野が不思議そうな顔をして立っていた。 「さ、猿…!」 犬飼の事情を知らない猿野は、肩越しに振り向いている犬飼の背中を両の手で力一杯押した。 「あ、犬飼くんだ!」 騒ぎに気付いたのか、入ってきた犬飼の姿が視界の中に入ったのか、女子生徒の一人が気付く。 「い、犬飼くん! 今はデンジャーです! お逃げな……!」 辰羅川も女子生徒の言葉で犬飼に気付き、慌てて声を掛けるが、時既に遅し。 「犬飼くん! これ、誕生日プレゼントなの!」 至近距離まで詰め寄られた犬飼は顔を真っ赤にさせる。何故か頭の両脇から白い犬の耳が見える。 「と、とりあえず…………」 そして、いざ断ろうにも、絶妙のタイミングで上目遣いに甘えてくるので、思わず言葉を飲み込んでしま 「お、お嬢さん方、犬飼くんから離れてください! 彼怖がってるでしょう!」 辰羅川が止めに入ってくれたが、即座に一蹴されてしまう。犬飼と彼では態度が天と地の差である。 「酷すぎます…。御柳くんと言いこの少女と言い何故私を金魚のフン扱いするのでしょう? そして傷心の辰羅川は、教室の隅で体育座りをしていじけてしまった。 「おい、辰………」 再び助けを求めようと辰羅川に手を伸ばすが、女子生徒がより迫ってきて遮られてしまう。 「犬飼くん!」 何も言えず、真っ赤にしたまま、困り果てるヘタレ王、犬飼。 「いっぬかっいくーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんvvvvv」
ボキッ!
何かが黄色い声を出しながら、後ろから犬飼に飛びついてきた。 「何しやが……! あっ」 腰に激痛が走っている。頭にきつつ振り返ってみれば、そこには、二つに分けた三つ編みと、十二支 「じゃ、アタイがたっくさ〜んプレゼントあげるから、こっち来てちょうだい!」 見た目以上に力強く腕を掴まれ、犬飼はそのまま引っ張られる。 「ちょっとアンタ何よ! いきなり出てきて!!」 そう明美は吠えると、再び甲高い声で喚きたてる少女を無視して、犬飼を引きずりながら階段を二段 「あんのオカマ〜〜〜!!!」 歯軋りしながら二人が去っていった方を思い切り睨んでいた、すっかりキャラの変わった少女の拳の
「お前ってホンットむかつくよな!!」 あれから真っ直ぐ裏庭まで出て、そこでの第一声はそれだった。いつの間にか明美から猿野へ戻って 「あんなに女の子から慕われてんのに、素直に受け取らないなんて、バチ当たりにも程があるぞ」 怒り顔でブツブツ言う猿野。一応犬飼に向かって言っているのだが、彼が何も言わないので独り言に
何故カミサマは要らない物ばかりくれるのだろう。
何故カミサマは欲しい物をくれないのだろう。
目の前にオレの要らないものを欲しがっている奴がいるのに
目の前にオレが欲しいものを持ってる奴がいるのに
「聞いてんのかよお前!!」 猿野に怒鳴られ、犬飼は我に帰る。 「テメェ犬科なら耳いーんだろ! さてはお前老犬か!?」 ギャーギャー騒ぐ猿野。犬飼は迷惑そうな顔を浮かべて猿野の声が入ってくる耳を塞ぐ。 「ったく…。ってあーー!! 授業始まっちまう!! オレ今日当たんだよー!!」 最早二人は別人(この場合は二重人格、か)と考えた方が良いようである。 「…………本当にそれだけか?」 何処かに、仄かに期待を込めて、言ってみる。 「………………………………当たり前じゃねーか」 猿野は言った。 「……………そうか」 犬飼も、それだけ答えた。 「…まぁ、いい。オレもどうしていいか困ってたし」 こうも素直になる事はないので、犬飼は気恥ずかしくて、そっぽを向いていた。猿野の顔は見えない。 「…………………………………………………キモチワルイ」 あからさまに本音を言われ、犬飼も流石に怒る。 「まぁ、この猿野様がいかに役に立つ存在か、分かったようだから、この際何も言わないでやる」 胸を張る猿野に犬飼はとりあえず突っ込む。 「あ! そろそろ本気でヤベェ!! んじゃな犬!」 猿野は腕時計を見た後、慌てた様子で犬飼をそのままに駆け出してしまった。犬飼の呼びかけには 「…あのバカ猿」 犬飼は悪態を吐いてから、猿野が消えた方に背を向ける。
ゴンッ
その時、後頭部に鈍い音。そして何かが落ちる音。 「……………ッ!」 犬飼はモロ直撃した部分を両手で抑え、うずくまる。痛い。理屈抜きに痛い。 「………猿、テメェ……」 犬飼に文句を言わせる暇もなく、猿野は早口で捲くし立てて、犬飼に背を向けて再び駆け出した。 「……………………」 何て事はない。手の平ぐらいの小さなものだ。包装だって、白い紙袋にセロハンテープ貼ってあるだけ 「…………素直じゃねぇの」 犬飼がふっと笑う。 構わない。 犬飼は猿野のプレゼントを強く握り締める。 どうやらカミサマも、たまには素直に願いを叶えてくれるらしい。
ところで、何が入っているのだろう? ペディ○リーチャム 肉たっぷり 「……………………………………」 犬飼は、手の平の上の缶詰を、複雑そうに見つめていた。 やっぱり、中身は構うかもしれない………………………………。 頭の遠くで始業のチャイムが鳴る。 犬飼は溜息を吐いた。
†終わり†
†あとがき† やっぱ本命CPは良いなぁ…。と思いつつ、やっぱ口喧嘩は苦手だなぁ…。と思います。 あんまり考えないで、指の赴くままに書いてました。 それではこの辺で。
03/11/09(一週間も遅れた…!)
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